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半田市 『新美南吉記念館』 ~建物で旅する愛知

弊社は愛知県半田市にある企業ですが、この半田市にゆかりのある著名な人物に「新美南吉」がいます。
半田市にお住まいの方であればご存じの方も多いかと思いますし、他地域の方でも「ごんぎつね」という作品名を聞けば、ピンとくるかもしれません。
小学四年生の国語の教科書にも掲載されている、国民的童話『ごんぎつね』の作者・新美南吉は、現在の半田市岩滑(やなべ)に生まれました。
その誕生日は7月30日。今回はその生誕を祝う「新美南吉生誕祭」に参列すべく、新美南吉記念館にお伺いしました。

 

新美南吉記念館

 

新美南吉のふるさと 半田 新美南吉記念館 館銘板

 

この記念館の建築設計を手がけたのは、新家良浩氏。
1991年、半田市と公益社団法人 愛知建築士会が主催した公開コンペで最優秀賞を受賞した案を元にこの建物は建設されました。

 

 

 

建築の外観と思想

 

新美南吉記念館 外観

 

まず目を引くのがその外観です。一見すると、小川のせせらぎが流れる芝生の広場にしか見えず、大きな建物の存在にはすぐには気づきません。
少し歩くと、芝生で覆われた大きな土手のような、波打つ屋根が現れ、来場者をやさしく迎えてくれます。
コンクリートのアプローチに導かれながら緩やかな斜面を下っていくと、ようやくエントランスにたどり着きます。

 

新美南吉記念館 敷地内導線

 

新美南吉記念館 入口前 新美南吉記念館 入口

 

この設計は、南吉が童話で描いた知多半島の自然や風景と調和させることを意図しています。

建築家の新家氏は、当初「この風景の中に建造物を建てるべきではないのではないか」とも考えたそうです。
丘や山、川や土手といった、郷愁を誘う風景に囲まれたこの土地で、建物が自然に馴染むよう構想が練られました。
当初は建物のスケール感を消すため、地下に潜らせる設計が検討されましたが、次第に「ただ建築を消すだけでは不十分なのではないか」との考えに至ります。
人間が自然に対して手を加える以上、まったく「何もない」状態ではなく、自然との接点を適切に表現すべきだと考えるようになったのです。
結果として、建築は完全に隠すのではなく、周囲の地形と連続するように地上へとゆるやかに現れます。
それはまるで自然の「揺らぎ」の一部であるかのような外観で、風景に溶け込んでいます。
この感覚は、いわゆる「里山」に対する考え方に近いものがあります。
自然は手を加えなければ荒れていきますが、適度に人の手が入ることで、動植物にとっても豊かな環境が実現されます。
まさに、キツネが住む風景との共生を願った設計思想が、建物全体に息づいているのです。

 

 

 

地下に広がる展示空間

 

新美南吉記念館 階段 新美南吉記念館 エントランス階段

 

館内の多くは地下にあるにもかかわらず、内部に入っても地下にいるという閉塞感はほとんどありません。
天井は建物の外形に従ってゆるやかなカーブを描いており、天井近くのスリットからは外からの光が入るように設計されています。

 

新美南吉記念館 館内 新美南吉記念館 館内展示

 

この設計には、「視点を引いて見た大きな風景の中の点として自分の存在を感じてほしい」「その中で自己が解放される空間にしたい」という想いが込められているそうです。
また、外観がいくつもの丘が連なるような流れを表現しているのと同様、館内の動線も上昇と下降を繰り返す設計になっています。
虚弱であった南吉の中にあった、やさしさと無常観、その矛盾に満ちた人生観が、この建築にメッセージとして表現されているように感じます。
その空間を体験することで、来館者は自身と静かに向き合うひとときを過ごすことができるでしょう。

 

新美南吉 銅像

 

 

 

 

新美南吉生誕祭

 

新見南吉生誕祭

 

生誕祭は、主催者・来賓のご挨拶から始まりました。
続いて、新美南吉が教諭として勤めた「安城高等女学校」の流れをくむ安城高等学校の生徒さんによる、南吉の詩の朗読が披露されました。
また、半田少年少女合唱団による、新美南吉作詞の歌の合唱も行われ、会場はあたたかな雰囲気に包まれました。
地域に愛され続けてきた新美南吉の生誕をお祝いし、私たちも僭越ながら献花をさせていただきました。

 

新美南吉生誕祭 献花 新美南吉生誕祭 山桃ジュース

 

式典の締めくくりには、南吉の養家の裏に立つ、作品にも登場する山桃の大木にちなんで、山桃ジュースでの乾杯が行われました。
甘酸っぱく、爽やかな山桃ジュースは、夏の暑さにすっと馴染み、とても美味しくいただきました。

 

 


 

 

 新美南吉記念館 ごんぎつね展示

新美南吉記念館とその建築には、地域の自然や文化、そして人々の想いが丁寧に織り込まれています。
今回の生誕祭への参列を通して、私たちもあらためてこの地に根ざした文化や歴史の尊さを感じることができました。
半田市に拠点を置く企業として、これからも地域の魅力や取り組みに関心を持ち、発信していくことで、微力ながら地域とのつながりを深めていけたらと願っています。

記念館の中には、『ごんぎつね』や『手ぶくろを買いに』など、作品にたびたび登場するキツネにちなんだかわいらしい意匠が随所に散りばめられています。
物悲しくもどこか懐かしい、童話の世界観をそのまま再現したような展示空間に、建築的な見どころも数多く詰まっています。
新美南吉の世界観に触れることができるだけでなく、建築の視点から見てもとても興味深いスポットです。
ぜひ一度、訪れてみてはいかがでしょうか。